只野真葛と滝沢馬琴

f:id:anzudou:20210313095648j:plain滝沢馬琴といえば聞いたことくらいはある有名人です。なぜなら教科書に太字で掲載されていて、日本の文学史上、歴史上重要な人物と認識されているからでしょう。私個人がぜひとも教科書に太字で掲載してほしい人物が、滝沢馬琴と同じ江戸後期を生きた女性思想家只野真葛です。
只野真葛は滝沢馬琴より4歳年上、63年の生涯で社会や政治に関する思想書を執筆した人物です。その思想は「独考」(ひとりかんがえ)上中下3巻に著されたのですが、原本は関東大震災で消失したそうです。しかし研究者の方々により伝記や抄録などの資料から内容が伝えられています。
その内容はざっくり言うと、儒教的倫理によって正当化された家族制度や社会制度を批判し、蘭学国学に影響されたとみられる経世済民論です。
江戸時代といえば女性は学問から遠ざけられ抑圧されていたイメージがありますが、こうして果敢に考えを著した女性がいたことは驚くべきことです。なぜそれが可能だったかは

*学問に親しむ家庭環境で育ち、また全国各地から来訪者がたえない家であった
*二度結婚するも自身は出産することはなく、二度目の夫が学問に理解があった

以上の二点が大きく影響したのではないかと思いました。これはとても読みやすい小説「葛の葉抄」永井路子著と近世女性史研究書「江戸後期の女性たち」関民子著を読めば納得していただけるのではないかと思います。
「独考」は1819年に江戸在住の妹を通して滝沢馬琴に届けられ、論評と出版の便宜をお願いしたそうです。それを機に一年ほどのやりとりがあったのですが、最終的には真葛の考えは馬琴によって猛烈に反論され絶交状を渡されてしまったとのことです。こうして当然当時の世の中に考えが知れわたることはなかったことは残念なことですが、1819年といえば馬琴が「南総里見八犬伝」を執筆しはじめてから3年がすぎた頃なので、タイミングも悪かったのでしょうかね。
私はフェミニストではありませんが、長い間学校で行われている教育には改良点が多々あると考えています。只野真葛のような人物にもスポットライトをあてることは現在を捉え直すヒントになると思います。
安部元総理大臣が掲げた女性が輝く社会を実現するためにも、またそれが男性の犠牲の上に成り立つものともならない社会であるためにも多様な視点が求められています。